第1章 婚礼衣裳業界とは
第2章 新婦の衣裳
第3章 新郎の衣裳
第4章 列席者の衣裳
第5章 ドレスコーディネーターの業務
第6章 貸衣裳店におけるドレスコーディネーターの実務
1. 受付対応(予約・来店対応)
2. カウンセリング
3. 衣裳選択
4. フィッティング技術
5. トータルコーディネート
6. 接客時のアテンドテクニック
7. お直し・メンテナンステクニック
8. ディスプレイ技術
9. 商品管理
10. 搬入と搬出
11. 仕入れ
12. 営業活動
13. 必要書類の作成
14. ドレスコーディネーターに求められるスキル
第7章 婚礼美容
はじめに
株式会社ジャスマックは1989 年、ハウスウエディングのパイオニアとしてゲストハウスの運営を始めました。「10 組のカップルには10 通りのウエディングを」という思いのもと、従来の日本にはなかったフリースタイルのウエディングのお手伝いをしてまいりました。
そのかたわら、2000 年には米国のウエディングプランナーの資格『ウエディングスペシャリスト』を認定する『ウエディングスビューティフルワールドワイド』の日本支部として、ウエディングプランナーのスキルアップと人間力を高めることを目的とした人材育成・教育事業をスタート。2010 年には、米国スタイルのウエディング教育プログラムとともに、“日本のウエディング”を学べる教材「日本のウエディングプランナー育成プログラム」を発行、また2013 年7 月にはウエディングスビューティフル協会を発足し、ウエディング現場の運営から得られる情報をもとに、いま求められているブライダル教育のあり方を常に念頭に置きながら事業に携わっています。
こうした歩みの中で、ウエディングプランナーに並ぶ人気職種であるドレスコーディネーターを育成するための教材を望む声が、ブライダル関連の教育現場から高まってきたことから、このたび本書「日本のドレスコーディネーター育成プログラム ~衣裳・美容・花のトータルコーディネート~」を作成し、上梓いたしました。
本書は、婚礼衣裳業務に関わるプロとして知っておきたい洋装、和装の専門知識、貸衣裳業に携わるために必要な実践的技術に加え、ドレスコーディネーターと関連の深い美容・花の基礎知識までを網羅。ドレスコーディネーターになるために知っておくべき知識と実務を一冊の本にまとめた初のテキストであり、今まで服飾業界や和服業界の専門書でしか学べなかったドレスのディテールや着物の知識をブライダル衣裳の観点から解説し、さらに貸衣裳店に勤務する際に必要な婚礼衣裳業務のノウハウをイラストや写真をふんだんに使用してわかりやすく解説しています。
カップルのニーズが多様化する昨今、衣裳に対するこだわりも増え、ドレスコーディネーターに求められるスキルは高まる一方です。このテキストで専門的な知識と実践的なスキルを身に付け、今後のブライダル現場での活躍に活かしていただければ幸いです。
最後になりましたが、本書を作成するにあたり、多大なるご協力を賜りました衣裳・美容・花の関連企業の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
株式会社ジャスマック
ウエディングスビューティフルジャパン
第1章 婚礼衣裳業界とは
1. ブライダル業界
ドレスコーディネーターが仕事をする業界は、「ブライダル業界」の中の「婚礼衣裳業界」である。ここではまず、ブライダル業界の概要を解説する。
1)ブライダルの業態
ブライダル、つまり婚礼は、人生の通過儀礼であり、婚姻を成立させるため、あるいは確認するための儀式である。
婚礼には多彩な様式があるが、日本においては一般に挙式と披露宴を行う。挙式は結婚を誓う儀式であり、披露宴は婚姻の報告とお披露目をする祝宴である。
ブライダルビジネスは、そうした婚礼を商品化して販売するサービス産業であり、主な業態には次のようなものがある。ただし近年は、新郎新婦のニーズが多様化していることから様々な対応が必要となり、業態による差がなくなりつつある。
1ホテル
今日の日本の一般的な婚礼スタイルは、ホテルブライダルを基に発展したといわれている。
ホテルの定義は第一に宿泊施設であることだが、その多くが宴会場と「宴会サービス部門」を持ち、婚礼は宴会サービス部門の主な収入源となっている。
ホテルブライダルは一般的に、施設内の神殿やチャペルでの挙式と、宴会場での披露宴から成り立っている。大規模から小規模までの多種多様な宴会場で幅広い婚礼ニーズに対応できることや、控室などの付帯設備が充実していること、衣裳・美容・装花・写真といった婚礼に不可欠なサービスの専門業者がテナントとして入っており、新郎新婦が効率よく、安心して利用できることなどがホテルの特徴である。また、ホテルは地域的な知名度が高いことが多く、一定以上の水準のサービスや品格を期待できることも魅力とされている。
2 専門式場
専門式場とは、婚礼を専門に取り扱う施設である。建物やサービス内容はホテルに似ているが、宿泊施設を持たないことが多く、婚礼のみ、または婚礼と一般宴会を収入源としており、経営母体のタイプによって互助会系・公共系・一般に区別することができる。施設にはチャペルや神殿のほか多彩な宴会場を備え、婚礼をメインとした業態であることから華やかなイメージでまとめていることが多い。衣裳・美容・装花・写真などのテナントが入っていることや婚礼専門施設ならではの安心感も、新郎新婦にとって魅力となっている。
互助会制度:会員制。一定期間会費を納め、積み立てることにより、葬儀や婚儀の際の高額な費用負担を軽減するシステム。
3 ゲストハウス
ゲストハウスは、1990 年代半ばに現れた邸宅型婚礼施設である。「ハウス」とはいっても「家」ではなく商業施設であり、宿泊設備は持たないことが多く、主に婚礼サービスで収益を得る新タイプの専門式場である。
ゲストハウスの最大の特徴は、大邸宅へゲストを招くイメージの婚礼をコンセプトとしている点で、敷地内に庭付き一戸建てを貸切スタイルで提供し、「プライベート感」と「スタイリッシュさ」をセールスポイントにしていることが多い。近年都市部では、新たにビルインタイプのゲストハウスも登場し、フロアを貸し切り従来の邸宅と同様のコンセプトを打ち出したウエディングを提供している。
いずれにせよ欧米風の婚礼を意識していることから、挙式用施設は通常、チャペルのみであることが多い。以前は衣裳・美容・装花・写真などのテナントが入っていることは少なく、そうしたサービスは施設と提携している専門企業からの出張業務などで提供されていたが、近年は関連事業を内製化するケースも増えている。
4 レストラン
レストランは、形式ばらず自由度の高い婚礼が可能なことから1990 年頃より注目を集め、寛いだ雰囲気と上質な料理を重視する新郎新婦に人気の業態である。
料理と飲物の提供が本業であるゆえ、婚礼はあくまでその延長上の業務と位置付け、披露宴の料飲サービスに主眼を置いている点が特徴といえる。そのため施設面も婚礼のイメージを全面に打ち出していることは少なく、チャペルなどの挙式施設も備えていないことが多いが、近年はゲストハウス並みの施設を備え、ブライダルデスクを常設するなど、婚礼に力を入れるレストランも増えている。
その他の業態
◆ 海外ウエディング
日本にはない、海外ならではのロケーションに憧れる新郎新婦のニーズに応え、海外各地の事業所で日本人向けの婚礼サービスを提供する企業がある。挙式、衣裳、ヘアメイク、ブーケ、写真、送迎から、現地や日本での祝宴、航空券やホテルの手配までサービス内容は多岐に及び、日本国内での一括手配を可能とする会社も多い。衣裳に関しては、現地サロンでのレンタル業務のほか、日本国内のサロンで新郎新婦が試着・決定後、現地で同じものをレンタルできるシステムも構築されており、日本とほとんど変わらないサービスが提供されている地域もある。
◆ その他のウエディング
「披露宴はしなくても挙式だけはきちんと」「花嫁衣裳を着た写真だけは残したい」という、いわゆる「ジミ婚」派カップルに支持されているのが「プチウエディング」「フォトウエディング」などと呼ばれる業態である。チャペルや写真スタジオ、衣裳室などを備えた施設を構え、約10 ~ 20 万円ほどの費用で「挙式+衣裳+記念写真」「衣裳+記念写真」などのサービスを提供する。披露宴を中心に販売する従来の業態ではカバーしきれなかったニーズを満たすものであり、近年、急増している。
2)ブライダル関連企業
ブライダル業界には、婚礼に関する様々な専門商品およびサービスを提供し、ホテルや専門式場などから「パートナー企業」と呼ばれる企業がある。その代表といえるのが衣裳・美容・装花・写真などの企業であり、いずれも婚礼施設へテナントとして入店する場合と、委託販売契約を結んで商品・サービスを受注する場合がある。
1 衣裳
新郎新婦が婚礼衣裳を入手する方法には「借りる」または「買う」方法があり、現在は「借りる」のが一般的である。そこで各婚礼施設では、主に「貸衣裳」を取り扱う企業と業務提携を結び、取引を行っている。
パートナー企業の貸衣裳業者は、婚礼施設外の店舗で接客する場合と、婚礼施設にテナントとして入店し接客する場合がある。婚礼施設との契約内容は、テナント料を支払うか、衣裳の売上に対して契約したパーセンテージのリベートが発生するのが一般的である。近年は婚礼施設が衣裳室を直営し、貸衣裳業を営む例も多く見られる。
リベート:支払い代金の一部を謝礼金・報奨金として支払い者に戻すこと。
2 美容
新郎新婦が婚礼衣裳を着用する際の化粧や着付けといった支度をブライダル業界では「美容」といい、この美容を行う企業が婚礼施設と業務提携し、パートナー企業として業務を担当する。
婚礼施設内にテナントとして入ることが多いが、施設によっては常駐でなく婚礼の都度、パートナー企業からスタッフを派遣することもある。婚礼施設との契約内容は、テナント料を支払うか、美容の売上に対して契約したパーセンテージのリベートが発生するのが一般的である。多くはないが、婚礼施設が美容室を直営していることもある。
3 装花
花嫁のブーケや花による装飾・演出は婚礼になくてはならないものであり、その花に関するあらゆる業務を行うのが、婚礼施設と業務提携を結んだ生花店である。婚礼施設内にテナントとして入る場合と、施設外のフラワーショップやアトリエ等で商品を製作して納品、またはその都度スタッフが婚礼施設に出向いて装飾を行う場合がある。
婚礼施設との契約内容は、テナント料を支払うか、装花の売上に対して契約したパーセンテージのリベートが発生するのが一般的である。婚礼施設が生花部を直営していることもある。
4 その他
婚礼施設と業務提携を結ぶ企業には、ほかにも「写真」「映像」「引出物」「引菓子」「印刷物」「演出」「旅行」「ジュエリー」「配膳会」などの企業がある。写真業者は婚礼施設にテナントとして入り、写真スタジオを運営する場合と、その都度フォトグラファーを派遣し、施設内のロケーションを利用した撮影を行う場合があり、婚礼施設との契約内容はテナント料を支払うか、写真の売上に対して契約したパーセンテージのリベートが発生するのが一般的である。その他の企業は、テナントとして入ることは稀で、売上に対するリベートの契約を結んでいることが多い。
また、ブライダル業界には、婚礼のプランニングおよび各種手配、当日の施行・進行管理やコンサルティングなどを主たる業務とする「ブライダルプロデュース会社」や、新郎新婦に二人の希望に沿った婚礼施設を紹介する「ブライダルエージェント」といった関連企業もある。前者は新郎新婦から直接得るプロデュース料や契約施設からのFB(Food & Beverage =料飲)コミッション、および付帯商品のリベート、後者は婚礼施設からのFBコミッションを主な収入源としている。
配膳会:宴会場での料飲サービスを業務とする企業。婚礼施設からその日の婚礼に必要な人数のサービススタッフの派遣依頼があり、その人数を派遣する。
コミッション:委託業務に対する手数料のことで、委任・委任状も指す。
3)衣裳に関わるスペシャリスト
婚礼の業務は多種多様であり、それぞれにスペシャリストを必要とする。婚礼衣裳に関わるスペシャリストには、以下のような職種がある。
1 ドレスコーディネーター
貸衣裳店やドレスショップ、婚礼施設内の衣裳室などに在籍し、婚礼衣裳全般の業務を行う。業務の範囲は企業によって異なるが、接客、フィッティング、コーディネート、補整、クリーニングやプレスなどのメンテナンス、婚礼施設への搬入、搬出、仕入れ、ディスプレイ、商品管理などがある。
ドレスコーディネーターには、婚礼衣裳に関する豊富な知識のほか、スタイリングのセンスやマナーをわきまえた接客スキル、お客様が相談しやすい雰囲気を醸し出すコミュニケーション力などが求められる。
2 衣裳の知識を必要とする職種
婚礼を成功に導くためには、各スペシャリストが職種や部門の壁を超え、新郎新婦の心からの満足を追求する必要がある。ドレスコーディネーター以外に衣裳の知識を必要とする職種には以下のようなものがある。
◆ ブライダルヘアメイクアーティスト
ヘアメイクサロンや婚礼施設内の美容室などに在籍し、主に新婦のヘアメイクの打合せやリハーサル、当日のヘアメイク、着付け、お色直し、お引上げなどを担当する、婚礼美容のスペシャリストである。
美容師資格や和装着付け技術の有無で担当する業務範囲が異なり、新郎や両親、ゲストの支度を行うこともある。ヘアメイクは、花嫁姿の完成度を左右する重要な要素である。ドレスコーディネーターは衣裳に合せたヘアメイクのアドバイスを求められることが多く、また、ヘアメイクアーティストも衣裳の知識が不可欠であるため、両者が連携を高めておくことは非常に有意義といえる。
お引上げ:挙式・披露宴の衣裳とヘアメイクから日常の服とヘアメイクに戻すこと。
◆ ブライダルフラワーコーディネーター
生花店または婚礼施設内の生花部に在籍し、婚礼装花全般の業務を行うスペシャリストである。ブライダルフラワーにはブーケをはじめ、装飾、演出、小物と多彩なアイテムがあり、フラワーコーディネーターの業務も打合せからデザイン、花材手配、製作、当日の施行と多岐にわたる。
装花は新郎新婦の個性や婚礼への想いをビジュアルで伝えるものであるが、例えばブーケはドレス姿を完成させる重要なアイテムであり、披露宴のテーブル装花は「ドレスとコーディネートしたい」という要望があるなど、衣裳との関連性が意外に強い。新郎新婦の希望を的確に叶えるためにも、フラワーコーディネーターとドレスコーディネーターが双方の知識を得ることは重要といえる。
◆ ブライダルフォトグラファー
写真館や婚礼施設の写真室などに在籍し、婚礼写真の撮影やアルバム製作などの業務を行う。婚礼写真には、新郎新婦二人の記念写真、親族が集合して撮影する親族集合写真と、挙式、披露宴などの光景を記録するスナップ写真などがある。中でも記念写真は、二人にとっても両家にとっても一生の思い出として残す重要な写真であるため、衣裳の細部の乱れにまで気を遣って撮影しなくてはならず、フォトグラファーにも衣裳に関する知識は不可欠となっている。
特に新郎新婦の和装の撮影は衣裳の乱れだけでなく、袖や裾の文様を美しく見せる技なども必要とされ、「礼装の格調高い姿」を美しく写真に残せるよう、衣裳に関する正しい知識を習得しておかなくてはならない。
▲CONTENTS
2. 婚礼衣裳業界
1)婚礼衣裳の変遷
婚礼衣裳とは、婚礼の際に新郎新婦が着用する衣裳のことである。我が国でこの概念が生まれたのは、武家によって婚礼の作法が調えられた室町時代といわれ、当時の武家女性が婚礼で着用した白無垢が、伝統的な花嫁衣裳として今日まで受け継がれている。明治維新以降は、その少し前から民間女性の礼装として広まっていた黒紋付裾模様の着物が花嫁衣裳としても着用されるようになり、上流の女性は白無垢、一般の女性は黒振袖というのが、戦前まで最もよく見られた花嫁衣裳であった。
一方、新郎はといえば、特別な“花婿衣裳”というものはなく、各時代とも身分に応じた正装を着用した。明治時代からは政府によって洋風の正装が奨励されたため、洋装を選ぶ新郎が増え、新郎洋装・新婦和装の組合せも珍しくなかった。いずれにせよ、新郎新婦とも衣裳は反物や生地を購入して新調するか、祖父母や両親から譲り受けたものを着用する、つまり自前で用意するのが当たり前であった。
しかし第二次世界大戦を境に、状況は一変する。戦災で何もかも失い、食べていくのがやっとという生活の中で、自前の婚礼衣裳を用意するのは容易なことではなく、美容室や写真館などには「衣裳が何とかならないか」という相談が相次いだという。そうした人々の要望から、戦前には見られなかった「貸衣裳」という新しいシステムが生まれ、広まっていった。
婚礼衣裳のレンタルが一般的となった昭和40 年代以降は、高度経済成長時代という時代背景も相まって、豪華な婚礼衣裳が好まれた。黒振袖の式服は姿を消し、少し前まで庶民には高嶺の花であった白無垢や色打掛で挙式後、華やかな本振袖やドレスに着替えることが人気となり、昭和50 年代以降にはお色直しを数回行う披露宴も珍しくなくなる。
しかし、平成の訪れとともに派手さを競うような婚礼を見直す風潮が高まり、また、キリスト教挙式やレストランウエディングなどの新しいウエディングスタイルが人気を集めたこともあって、婚礼衣裳は徐々に洋装が主流となり、ウエディングドレスで挙式後、カラードレスにお色直しというパターンが多くみられるようになってきた。和装は一時期減少の一途を辿っていたが、近年は、当日着るのは洋装のみでも「和装の記念写真は残したい」といった要望もあり、和装のニーズは増加している。
2)婚礼衣裳のタイプ
婚礼衣裳は、新郎新婦の入手方法により主に以下の3タイプに分類される。「借りる衣裳」である貸衣裳は「貸衣裳店」、「買う衣裳」であるセルドレスおよびオーダードレスは「ドレスショップ」で主に取り扱われているが、現在はレンタルを中心にセルやオーダーも扱う貸衣裳店や、オーダーをメインにレンタルも行うドレスショップなども多くなっている。
1 貸衣裳(レンタル)
「 レンタル衣裳」とも呼ばれる貸衣裳は、現在の日本の婚礼衣裳の主流である。多くの人に支持される理由としては、購入するより安価な料金で豪華な衣裳を着用できることや、選んだ衣裳の着こなしに必要な小物類までトータルなセットで借りられること、着用後のメンテナンスや保管が不要であることなどが挙げられる。取り扱う衣裳の種類は、白無垢、色打掛、本振袖、ウエディングドレス、カラードレス、紋付羽織袴、タキシードといった新郎新婦の衣裳から、父親のモーニングコート、母親の留袖をはじめとする列席者の正装まで幅広く、成人式の着物や七五三の衣裳など一般のフォーマルウェアまで網羅する店も多い。
商品は通常、婚礼衣裳の専門メーカーから仕入れたものが中心であるが、海外から仕入れた衣裳や自社製作の衣裳を貸し出すこともある。近年は、新婦の洋装レンタルの弱点とされていた「他人が袖を通した衣裳」というイメージを払拭するため、新品のドレスを最初に着られることを約束する「ファーストレンタル」システムなども考案されている。
現在では競合他社との差別化を図るため、幅広い商品のラインナップや価格帯を備えて、選択肢の幅を広げている店舗も増えている。なおレンタル料金の主な価格帯は、ウエディングドレスが18 ~ 20 万円、カラードレスが20 ~ 23 万円、白無垢10 万円、色打掛30 万円、本振袖20 ~ 25 万円が中心となっている。
2 セル
「 セル」は「セルドレス」の略で、広義にはレンタルドレスに対する「販売ドレス」を意味し、狭義には市販のプレタポルテ(既製)ドレスを指す。通常は完成品の状態でサイズごとに販売されており、新婦の体形に合せて多少の直しも可能である。商品は通常、国内や海外のメーカーから仕入れたものであることが多いが、自社で製作したものや、自社でデザインし海外の縫製工場で製作したものを販売しているショップもある。近年は輸入品が多く見られ、上質な素材を使った高価なものから、レンタルドレスより安価なものまでバラエティ豊かである。
セルドレスの一番の魅力は、真新しい自分だけのドレスを着られることであり、主な購買層は「自分だけのドレス」にこだわる新婦である。しかし、海外や故郷での挙式後、ある程度日が経ってから披露宴を行う場合などに、貸衣裳を2度利用するよりリーズナブルという理由での需要も多くなっている。
価格帯は、5万円から高いものだと100 万円を超えるものもあり幅広く取り扱われている。
3 オーダー
「 オーダー」は「オーダーメイドドレス」の略で、ドレスショップやオートクチュールサロンでオーダー(注文)して仕立てるカスタムメイドドレスを意味する。婚礼用のオーダードレスにはいくつかの種類があり、サンプルデザインを基本としながら多少のアレンジがきく「プレタクチュール」、デザイナーに相談しながら一からデザイン・素材を決め、世界に1着のオリジナルドレスをつくる「オートクチュール」、好みのデザインを自分のサイズで仕立てる「サイズオーダー」などがある。通常は自社アトリエなどで製作し、販売する。
オーダードレスの最大のメリットは、着る人を最も美しく見せるバランスで、体にぴったりフィットするように仕立てられたドレスが約束されることである。
価格は20 万円台から設定されていることが多い。
3)婚礼衣裳の店舗形態
婚礼衣裳を取り扱う店舗には、以下のような形態がある。ただし、セルおよびオーダードレスを中心としたドレスショップは、その大半が「路面店」である。
1 路面店
路面店とは本来「繁華街などの大通りに面した店」を意味するが、婚礼衣裳業界では、婚礼施設内のテナントや直営衣裳室でない「街場の衣裳店」を広く指す言葉として使われている。
自社ビルをはじめ百貨店やファッションビル、ショッピングモールなどに店を構え、その店独自のデザインやセレクションを全面に打ち出しながら営業しているのが最大の特徴である。利用客は雑誌やネットなどを見て来店する場合と、提携する婚礼施設に紹介されて来店する場合があるが、前者のようなフリー来店の新郎新婦が成約した場合、近年は新郎新婦が婚礼施設へ「持込料」を支払わなければならないことが多くなっているため、持込料の全額または一部を負担する店が多くなっている。また、後者のような提携施設からの紹介客が成約した場合は、提携施設へ契約したパーセンテージの手数料を支払うのが一般的である。
持込料:新郎新婦が婚礼施設の提携店外で手配した衣裳・引出物などを持込む際に、婚礼施設へ支払う費用。「保管料」ということもあり、商品を預かる時点で商品の保管責任義務が婚礼施設側に生じることを理由に請求される。しかし基本的には、パートナー企業の売上減を防止し、業務提携を良好に保つことを目的としている。
2 婚礼施設内のテナント(インショップ)
婚礼施設内にテナントとして入店し営業する店を「インショップ」といい、現在はそのほとんどが貸衣裳店である。インショップは路面店と違い、その婚礼施設で挙式・披露宴を行う新郎新婦、および両親などの列席者の接客が中心となるため、施設内のチャペルやバンケットルームに合せた衣裳を提案しやすいというアドバンテージがある。
インショップと婚礼施設の契約形態は婚礼施設により異なるが、最初に保証金が必要な場合と不要の場合があり、必要な場合は独占契約的な契約内容であることが多い。その後は月々のテナント料が必要なこともあれば、テナント料は不要である代わりに売上に対する手数料が必要となることもある。テナント料が必要な契約の場合は、売上に対する手数料のパーセンテージが低くなるのが一般的である。
3 婚礼施設の直営衣裳室
パートナー企業に委託するのではなく、婚礼施設が直接運営する衣裳店のことで、貸衣裳が中心である。婚礼施設と同会社の「衣裳部」という1セクションであることもあるが、子会社やグループ会社などの別会社になっていることも多い。後者の場合は、テナントと同様の契約を結び、テナント料や手数料が発生する。
その婚礼施設で挙式・披露宴を行う新郎新婦および列席者をほぼ独占的、または優先的に獲得できるのはインショップと同様である。
インターネットショップ
近年はインターネットの普及に伴い、ネットを通じて婚礼衣裳を入手する新郎新婦も増えている。
ネット上で展開されているのは主にセルドレスであるが、レンタル衣裳やオーダードレス、中古ドレスの引取りや委託販売などを行うネットショップもある。手軽に探せるうえに価格も格安であることが多いため人気が高まっているが、実店舗のように現物を目で確かめることができず、試着もできないうえ、販売品はほとんどが返品不可であるため、実際には二次会用などに用いられることが多いようだ。
4)ドレスコード
婚礼衣裳はフォーマルウェア、つまり正装の一種であり、挙式・披露宴の格式や時間帯などによりふさわしい服装のルールがある。最も格式の高い礼装を「正礼装」、それに次ぐ格のものを「準礼装」、さらに格を下げた略式の礼装を「略礼装」といい、この3つに区分した着用ルールを「ドレスコード(服装規定)」という。
ドレスコードは、「プロトコール」と呼ばれる外交儀礼の服装ルールを基本に、世界各国でそれぞれの伝統や慣例を加味した独自ルールを形成していることが多い。ファッションは生き物であるゆえ、プロトコールもドレスコードも現在のものが永遠に続くわけではなく、時代とともに変化する。なお、「平服指定」のパーティなどには、普段着でなく略礼装を着用するのが世界共通のエチケットとなっている。
欧米では婚礼をはじめとするフォーマルな宴席や行事の場合、主催者が招待状にドレスコードを記すのが一般的であるが、日本では宮中行事などを除いた一般の行事・宴会で服装が指定されることは稀で、出席者の自己判断に任されているのが現状である。しかし、日本にはもともと時間帯による着分けの習慣がなかったため、洋装で標準とされるドレスコードと現実に着用されている服装に若干の違いが生じている。
プロトコール:外交儀礼、典礼のこと。外交の場や国際的な催しにおける列席者の序列、国旗の取り扱い、儀式等の進行、服装などの規則や手順などを歴史的事例や慣例に基づいてまとめたもの。
◆ 日本の標準的なドレスコード
正礼装 | 準礼装 | 略礼装 | |
---|---|---|---|
新郎 | <洋装・昼> モーニングコート <洋装・夜> 燕尾服またはタキシード <和装> 黒紋付羽織袴 |
<洋装・昼> ディレクターズスーツ <洋装・夜> ファンシータキシードまたは ファンシースーツ <和装> 色紋付羽織袴 |
<洋装・昼> ロングジャケット&スラックス <洋装・夜> ロングジャケット&スラックス <和装> 略紋服 |
新婦 | <洋装> ロングトレーンドレス <和装> 白無垢、色打掛、黒本振袖 |
<洋装> フロアレングスドレスまたは アンクルレングスドレス <和装> 色本振袖 |
<洋装> ショートレングスドレス <和装> 中振袖 |
父親 媒酌人 |
<洋装・昼> モーニングコート <洋装・夜> 燕尾服またはタキシード <和装> 黒紋付羽織袴 |
<洋装・昼> ディレクターズスーツ <洋装・夜> ブラックスーツ <和装> 色紋付羽織袴 |
<洋装・昼夜を問わず> ブラックスーツまたは ダークスーツ <和装> 略紋服 |
男性ゲスト | <洋装・昼> モーニングコート(主に親族) <洋装・夜> タキシード |
<洋装・昼> ディレクターズスーツまたは ブラックスーツ <洋装・夜> ファンシータキシードまたは ファンシースーツ |
<洋装・昼> ダークスーツまたは ブレザー&スラックス <洋装・夜> ダークスーツまたは ジャケット&スラックス |
女性ゲスト | <洋装・昼> アフタヌーンドレス <洋装・夜> イブニングドレス <和装・ミセス> 黒留袖(親族のみ)、色留袖 <和装・ミス> 振袖 |
<洋装・昼> セミアフタヌーンドレスまたは タウンフォーマルスーツ <洋装・夜> ディナードレスまたは カクテルドレス <和装> 染抜き三つ紋or 一つ紋の色無地 または訪問着 |
<洋装・昼夜を問わず> インフォーマルドレス <和装> 付け下げ、色無地、格調高い小紋 |
◆ 日本の一般的な婚礼衣裳の目安
昼の衣裳 | 夜の衣裳 | |
---|---|---|
新郎 | <和装> 黒紋付羽織袴/色紋付羽織袴 <洋装> モーニングコート/タキシード |
<和装> 黒紋付羽織袴/色紋付羽織袴 <洋装> 燕尾服/タキシード |
新婦 | <和装> 白無垢/色打掛/本振袖 <洋装> ウエディングドレス/カラードレス |
<和装> 白無垢/色打掛/本振袖 <洋装> ウエディングドレス/カラードレス |
父親 媒酌人 |
<和装> 黒紋付羽織袴 <洋装> モーニングコート/タキシード |
<和装> 黒紋付羽織袴 <洋装> 燕尾服/タキシード |
母親 媒酌人夫人 |
<和装> 黒留袖/色留袖 <洋装> アフタヌーンドレス |
<和装> 黒留袖/色留袖 <洋装> イブニングドレス/カクテルドレス |
男性 | <洋装> ディレクターズスーツ/ダークスーツ | <洋装> タキシード/ダークスーツ |
女性 | <和装> ミセス:黒留袖(親族のみ)/色留袖 ミス:中振袖/訪問着 <洋装> ドレッシーなスーツ/ワンピース |
<和装> ミセス:黒留袖(親族のみ)/色留袖 ミス:中振袖/訪問着 <洋装> ドレッシーなスーツ/ワンピース |
第2章 新婦の衣裳
1. 洋装
現在の日本の婚礼における新婦の衣裳は、和装より洋装が選ばれることが多い。洋装とは西洋に由来する装いのことで、日本の花嫁衣裳では「ウエディングドレス」と「カラードレス」に大別される。
ウエディングドレスは「ホワイトドレス」「白ドレス」と呼ばれることもあり、挙式用の「式服」のほか、披露宴用の「パーティドレス」として着用されることもある。ドレス姿に身につける、ベール、ヘッドドレス、グローブ、アクセサリー、パニエ、シューズ、ブーケなどのアレンジで、式服としてのウエディングドレスは清楚なイメージに、パーティドレスとしてのウエディングドレスは華やかなイメージに着こなすことが多い。一方、カラードレスは白以外の色の付いたドレスのことで、原則としてお色直しに着用される。なお、「カラードレス」は、お色直しという独自の習慣を持つ日本独特の用語である。
ここでは西洋のウエディングドレスの歴史とともに、ドレスを構成するディテール(詳細)を解説する。
ウエディングドレス:「花嫁衣裳」「結婚式に着用するドレス」を意味する英語で、フランス語では「ローブ・ドゥ・マリエ」という。
アメリカでは「ウエディングガウン」「ブライダルガウン」と呼ばれることもある(英語の「ガウン」がゆったりした上着や部屋着のほか、「華やかなフォーマルドレス」も指すため)。
1)ウエディングドレスの歴史
「ウエディングドレス=白」という認識は、今や世界的なスタンダードとなっているが、西洋で全身を白で統一する花嫁衣裳が生まれたのは19 世紀であり、服飾史においては比較的新しい事象といえる。では、それまでの花嫁は何を着ていたかというと、地域や民族、宗教、身分などにより様々であった。
欧米文化の母体となった古代ローマの花嫁は、結婚式を祝う神・ヒュメンが好むとされた白のチュニックをまとい、竈(かまど)と家庭の守護神・ウェスタを象徴する炎色のベールを被ったという。しかし、ローマ帝国が崩壊した中世以降は、特定の色や形の花嫁衣裳は見られず、花嫁たちは思い思いの正装で結婚式に臨んだ。王侯貴族や富裕層の花嫁は、最高の衣裳を誂えることができた。時に白い衣裳が選ばれることもあったが、金糸・銀糸や様々な色糸で豪華な刺繍を施したものが多かった。
一般庶民の花嫁は、日曜の礼拝のため教会へ着て行く「一番良い服」を身につけ、もし新しく用意するとしても挙式後は「よそゆき」として活用できるように、汚れやすい白ではなく、淡いグレーやブルーなどの有色の生地を選んだ。
こうした中で全身を白で包む新しい伝統を生み出したのが、1840 年2 月10 日に行われた英国のヴィクトリア女王の結婚式である。王族の花嫁は通常、色とりどりの宝石や刺繍、毛皮などを贅沢にあしらった豪華絢爛なドレスをまとい、きらびやかな宝冠やティアラを被って威厳を漂わせるのが常であった。
しかし女王が選んだのは、白いオレンジの花を飾った白サテンのドレスに揃いの花のリース、繊細なレースのロングベールという、白一色の清楚なコーディネートであった。これは王族の結婚といえば政略結婚が当然であった当時、大英帝国の女王であるヴィクトリアが自ら熱望し結ばれた花婿のアルバートがドイツの小国の王子であったことを気遣っての選択だったが、その可憐な姿が新聞や雑誌などのメディアを通じて大評判となる。
ロイヤルウエディングに憧れる女性にとって白一色のコーディネートは、本物の宝石のティアラや豪華な刺繍がなくても真似しやすいものであったうえ、この頃から商工業が発展し、中流層が成長したことで、多くの人に「結婚式の日に一度だけ着る白いドレス」を誂える贅沢が可能になったことも相まって、白いウエディングドレスは一大ブームとなり、やがてヨーロッパやアメリカを経て世界中に広まった。
炎色:燃え上がる炎のような、鮮やかな赤みのオレンジ色。
2)ウエディングドレスの変遷と傾向
ウエディングドレスには流行がないといわれることもあるが、実際は時代によって人気のデザインが変化している。日常のファッショントレンドとの関わりやリバイバルデザインの特徴をつかむためにも、ここ半世紀の傾向を知っておきたい。
1 1950 年代
1950 年代は、第二次世界大戦が終わって人々が豊かさを取り戻し、再びおしゃれを楽しめるようになった時代だった。娯楽の中心が映画であったため、女優のクチュールファッションが注目された。1947 年にクリスチャン・ディオールが発表して一世を風靡した、優しい肩線、細く絞ったウエストからたっぷりとスカートが広がる「ニュールック」が引続き支持され、ウエディングドレスにも取り入れられた。パニエでふんわりと膨らませたスカートはトレーンのないスタイルが中心で、足首丈であることも多く、短いベールを合せるのが流行した。
2 1960 年代
プレタポルテが誕生した1960 年代は、ファッションがシンプル志向へと大きく変化した時代である。イヴ・サンローランのモンドリアンルックに代表される未来的デザインが数多く発表され、モッズルックやミリタリールック、ヒッピールックなどのストリートファッションも生まれた。1962 年頃から爆発的に流行したミニスカートは、既存の体制が崩れたこの時代の象徴となった。
ウエディングドレスは1950 年代を踏襲したスタイルが人気だったが、後半からはコットン製の中東風長衣やスモックなどを着る個性的な花嫁も現れた。
3 1970 年代
1970 年代は、ファッションが多様化した時代である。1960 年代に生まれたヒッピールックやすっかり市民権を得たジーンズルックのほか、フォークロアルック、ビッグルック、レイヤードルックなどが流行し、既成概念に捉われることなく自分の着たいものを着るのが当たり前の時代になった。
ウエディングドレスにもミニ丈やテイラードスーツスタイルといった個性的なデザインが登場したが、大部分の女性はシンプルなロングドレスを選んだ。
4 1980 年代
上昇志向が高まった1980 年代は、クチュールファッションが再び注目された時代である。
デザイナーの個性を豊かに表現した服が支持を集め、日本ではバブル経済を背景にDCブランドブームが興った。ウエディングドレスは1981 年のチャールズ皇太子とダイアナ妃の英国ロイヤルウエディングを機に、豪華でロマンティックな正統派スタイルが人気を呼び、パールやビーズをふんだんに刺繍し、スカートをたっぷりと膨らませて長い裾を引く、おとぎ話のプリンセスを思わせるスタイルが流行した。
5 1990 年代
ゴージャスで装飾過剰ぎみであった1980 年代の反動から、1990 年代以降のファッションはシンプルなスタイルが主流となった。グランジやヒップホップといった新しいファッションも生まれたが、かつてのミニスカートのような、誰もがこぞって取り入れるほどの大きなトレンドは生まれにくくなった。ウエディングドレスもデコラティブなものが減り、花嫁の個性を引立てるシンプルなデザインが支持されるようになった。
6 2000 年以降
2000 年以降はメガブランドデザイナーの若返りが進み、流行がますます多様化している。シンプルで着こなしやすいリアルクローズが主流となり、2007 ~ 2008 年頃からはトレンドアイテムをいち早く取り入れ、安価で販売する「ファストファッション」の台頭が目立つ。
ウエディングドレスはスカートをたっぷり膨らませたシルエットから、すっきりとしたAラインやスレンダーラインへ人気が移っている。装飾が控えめになったぶん、素材やカッティングが重視されるようになったほか、ビスチエドレスのような肌を見せるデザインが支持を集めるようになった。現在は、価格もデザインも国内外のブランドを問わず幅広く選べるようになっている。
3)ドレスのデザインディテール
ウエディングドレスやカラードレスは、シルエットや袖、ネックライン、ボディス、スカートなどの様々な服飾ディテールを組合せてデザインされている。各ドレスのデザインポイントを把握し、顧客へ正確に説明するためには、正しい名称と特徴を覚える必要がある。
◆ ドレスディテールの名称
1 ライン(シルエット)
ラインは本来「線」を意味する言葉であるが、服飾用語では「シルエットライン(輪郭線)」の略語として使われている。シルエットは「影絵・輪郭」の意で、ファッション界ではラインとほぼ同義である。どちらも「衣服の外形」を表し、服の形の特徴を表現するのに用いる。
新婦がドレスを選ぶ際、ラインは理想の1着に出会うための大きな手かがりとなる。好みの方向性をつかむ糸口ともなるため、主要なラインは必ず覚えておく必要がある。
上部が小さく、裾に向かって広くなる、A字形のシルエット。1955 年にクリスチャン・ディオールが発表したラインで、今日のドレスの基本ラインの1つになっている。
ウエストの切替えがなく、縦の切替え線だけで上半身をフィットさせてウエストを絞り、裾広がりにしたライン。英国王エドワード7世の妃が皇太子妃時代に愛用し、この名が付いた。
スカートを半球形(ドーム)に膨らませたシルエット。お姫様を連想させるため「プリンセスライン」と呼ばれることもある。アメリカでは「ボールガウン」というのが一般的。
マーメイドは「人魚」の意。膝までスリムで、膝下あたりから魚の尾びれのように広がるシルエット。エレガントなイメージでウエディングドレス、カラードレスとも人気がある。
スレンダーは「ほっそりした」の意。ボディに沿った細身のシルエットで、モダンなイメージがある。アメリカでは細長くタイトなシルエットを指す「シースライン」の名称を使う。
ハイウエストから細身のスカートが続くシルエット。エンパイアは「帝国」の意で、ナポレオン第一帝政下で流行したことから命名された。仏語では「アンピールシルエット」という。
ボールガウン:Ball gown。舞踏会用ドレスのこと。